こんにちは。「単純作業に心を込めて」の彩郎です。
アシタノレシピ2月の月イチテーマは、「後悔や不安、恐怖を克服する(共存する)ライフハック」です。そこで今回は、私にとってわりとうまく機能している、四則演算の行動指針を紹介します。
【生き延びるための行動指針】
自慢できることではありませんが、私の精神的なキャパシティはわりと低いと思います。過ぎたことを後悔したり、突然不安になったり、よくわからない恐怖が湧いてきたりすることはしょっちゅうです。新しい仕事を始めるタイミングなどで、いろんなもの全部まとめて面倒になることもたまにあります。最近、ベーシックインカムというものに興味を持ったのですが、この動機も、つきつめれば、「ベーシックインカムが保障された社会でのんびり暮らしたい」というところにあります。
それでも、ここ数年は、総じて、持続可能で平和な毎日を送り続けることができてい(ると自分では思ってい)ます。
なんでだろうかと自己分析してみたら、大きく分けて、3つの要因に思い至りました。
ひとつはテクノロジーです。Toodledo、WorkFlowy、Gmailなどのウェブサービスは、確かに心の余裕を生み出してくれました。また、iPhoneやMacBook Airのおかげで、いつでもどこからでも小さなタスクを片付けることができるため、時間的な余裕が増えました。
ふたつめは、最近の私の生活が、物理的にそれほどハードなものではない、ということです。特に労働時間。これは、幸運にして恵まれてるんだろうと思います。
そしてみっつめは、もう少し抽象的な行動指針です。
昔から(20歳くらいのころから)、我ながら精神的なキャパシティが低いことを痛感していましたので、そんな自分でも、なんとか生き延びていけるように、本を読んだり人に話を聞いたり試行錯誤を繰り返したりしながら、自分なりの方法論を模索してきました。
そんな中で徐々に浮かんできたのが、いくつかの行動指針です。不安や恐怖がやってきたとしても、自分にできるのは、自分の体と頭を動かして行動することだけです。ですが、同じ行動するにしても、やみくもに動くよりも、あらかじめ用意した行動方針を参考にするほうが、概してうまくいく気がします。
【四則演算の行動指針】
私の行動指針は、[足し算][引き算][掛け算][割り算]という四則演算です。
- [足し算]行動を増やす
- [引き算]行動を減らす
- [掛け算]行動に意味を付け加える
- [割り算]行動から意味を取り払う
[足し算]
足し算とは、行動を増やす、ということです。
多くの場合、不安や恐怖の原因は、自分がやるべき行動が多すぎることです。なので、そんな場面で行動を増やしてどうするんだ、という気もします。でも、行動を増やすことで、逆に不安や恐怖を解消できる場合もあります。
たとえば仕事で、いままでに経験したことのないタイプの案件に取り組むことになったとします。関係者との打ち合わせや各種資料の整理によって、これからやるべきタスクの概要はつかめたものの、その量の膨大さに圧倒されるとともに、今後、この案件がどのように進みどのあたりに落ち着くのかの見通しがつかず、不安と恐怖がやってきます。
そんなとき、いざ実際に行動を始める前に、次のような行動を増やすことが考えられます。
- その案件についての一般的なことを、本やウェブで勉強する
- 同じような案件を扱ったことのある先輩や知人から経験談を聞く
- 現時点で把握できているやるべきタスクを細分化する
- 今、現に自分の中にある恐怖や不安を、具体的で明確な言葉にする
これらは、やるべき行動を直接に片付けるのではなく、新しい行動を増やしています。でも、これらに取り組むことで、不安や恐怖が小さくなります。
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足し算のポイントは、どんな行動を増やすか、です。下手な行動を増やすと逆に追い込まれてしまいますので、慎重に判断しなければいけません。
ざっくりした分類ですが、私は、次のように整理しています。
- やるべき行動と関係のある行動を増やす
- 抽象的にいえば、
- やるべき行動を整理する
- 行動する主体である自分のことを整理したり、強化したりする
- 具体的には、
- Toodledoなどのタスク管理ツールにタスクを書き出す
- 案件と向き合ったとき、自分の中に湧いてくる感情を、WorkFlowyやテキストエディタに書き出す
- タスクを片付けるために必要な知識や技能を身につける
- 似たような状況をくぐり抜けた人の体験談を聞いたり読んだりする
- 抽象的にいえば、
- やるべきタスクと関係のない行動を増やす
- 抽象的いえば、気分転換と体力回復
- 具体的には、
- 趣味を楽しむ
- 家族との時間を過ごす
- 好きなものを食べる
- 運動したりストレッチしたりする
- 昼寝したり、早寝したりする
[引き算]
引き算とは、行動を減らす、ということです。
多くの場合、不安や恐怖は、自分がやらなければいけない行動の量や質が自分のキャパシティを超えているように感じられることから生まれます。そこで、自分がやるべき行動を減らせば、キャパシティ内におさまって、不安や恐怖は小さくなります。
とはいっても、行動を減らすのは簡単ではありません。特に、気持ちの余裕が少ないときは、「減らすなんて無理!」と感じてしまいがちです。
そこで、「どのように行動を減らすか?」という減らし方が大切になります。いわば、行動の減らし方のレパートリーです。
今のところ、私のレパートリーは、こんな感じです。
- やるべきか否かのラインを調整する
- 自分ではない主体に、引き取ってもらう
- やるべき行動が新しく発生しないようにする
■ やるべきか否かのラインを調整する
やるべき行動は、物理的な物体として存在しているわけではありません。ある行動をやるべき行動にしているのは、その行動をやるべきである、という自分自身の判断です。裏を返せば、自分自身で設定しているやるべきか否かのラインを調整すれば、それだけでやるべき行動を減らすことができます。
■ 自分ではない主体に、引き取ってもらう
やるべき行動は、自分がやるべき行動です。自分以外の主体にその行動を引き取ってもらい、自分ではない誰かor何かがやるべき行動になれば、自分がやるべき行動ではなくなります。
自分ではない主体に引き取ってもらうには、たとえば、次のような方法があります。
- □ ルールに沿って振る
- 仕事上のやるべき行動であれば、仕事上のルールに沿って、その仕事を誰か別の人に振ることができるかもしれません。
- □ 交換する
- 別の主体と、やるべき行動を交換することができるかもしれません。
- 交換なので総量は必ずしも減るわけではありませんが、苦手な行動が減って得意な行動が増えるなら、主観的な負担はぐっと減ります。
- □ お金を払う
- お金を払えば、別の主体にやるべき行動を引き取ってもらえます。
- この方法は、幅広く応用できます。シャツをクリーニングに出すのも、朝食をスターバックスで食べるのも、家計簿にマネーフォワードを使うのも、広い意味ではこの一例です。
- □ 助けを求める
- 単純に助けを求めるのも有効です。私の経験からいって、何人かにストレートに助けを求めれば、助けてくれる人は出てきます。
■ やるべき行動が新しく発生しないようにする
日々、せっせと生きていれば、個々のやるべき行動は、少しずつ片付いていきます。それでも総体としてのやるべき行動全体がちっとも減らないのだとすれば、それは、常に新しいやるべき行動が発生しているからです。
だから、総体としてのやるべき行動を減らすには、やるべき行動が新しく発生しないようにする、という予防が大切です。
やるべき行動を新しく生み出す二大源泉は、新しいことを自分から始めることと、人からの頼みに応じることですので、発生予防は、
- 新しいことを自分から始めることを抑えめにする
- 人から頼まれたときに、全部応じるのではなく、ときには断る
ということになります。
[掛け算]
掛け算とは、行動に意味を付け加える、ということです。
後悔や不安や恐怖は、やるべき行動の多寡だけで決まるものではありません。やるべき行動が膨大でも、価値や楽しさを感じながら一生懸命やっているうちに、いつのまにか大変なところをくぐり抜けていた、ということもあります。反対に、客観的にはそれほど困難ではない状況であっても、自分のやるべき行動に価値や楽しさをまったく見い出せないなかで取り組んでいることで、気持ちも落ち込み、頭と体もうまく動かず、いつのまにか後悔と不安と恐怖にがんじがらめになってしまうこともあります。
こんなことへの対策が、掛け算です。自分のやるべき具体的な行動自体は所与として、そこに自分なりの意味を付け加えます。
たとえば、
- 気の重い仕事に取り掛かるときに、その仕事を通じて何らかの技術や知識を身につけようとする
- 長距離ドライブをするときに、将来、自動運転が実現した社会のあり方を考える
- 子どもの希望で休日に遠方へ外出するときに、ブログの子育て記事のネタを探す
といったことです。
それぞれ、
- 気の重い仕事に、「技術や知識を身につける」という意味を付け加える
- 長距離ドライブに、「AIが社会に与えるインパクトの具体的検討」という意味を付け加える
- 家族サービスに、「ブログのネタ探し」という意味を付け加える
という掛け算になります。
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さて、掛け算は、やりようによっては、ほとんどすべての行動に、何らかの意味を付け加えることができます。ここで付け加える意味には、いくつかの類型があります。自分がワクワクする類型を自覚することが、うまく掛け算をするコツです。
私がわりと多用する類型は、
- 学びや成長へとつなげる
- アウトプットのネタとする
- 課題や解決策を発見するきっかけとする
- 信用や評判を育てる機会と捉える
- ゲームとして捉える
あたりです。
[割り算]
割り算とは、行動から意味を取り払う、ということです。
割り算は、掛け算の反対です。
掛け算を活用すれば、自分のやるべき行動に、意味を付け加えることができます。うまくやれば、自分のやるべき行動の多くに、自分なりの価値やら面白さやらを感じられるようになるでしょう。意味の密度が高くなって、充実した気持ちになれます。
でも、これは両刃の剣です。濃密すぎる意味に追い込まれて、かえって行動が鈍くなってしまうこともあります。そこで、余計な意味を取り払うことで、やるべき行動を軽くします。これが割り算です。
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たとえば、小さい子どもがいると、毎朝、子どもの身支度をする必要があります。食事の後、歯を磨かせて、顔を洗わせて、着替えさせて、用意をさせて、といったことです。
面倒で時間もかかるのですが、教育という意味を付け加えて、「この1回1回の積み重ねで、子どもは、少しずつ何かを身に着けていく」というように捉えることができれば、子どもが自分で着替えを選ぶのに長い時間がかかったり、顔を洗う途中で洗面所を水浸しにしたりしても、それなりにゆったりと受け入れることができます。これは掛け算です。
でも、そんな余裕がないときもあります。寝坊して時間が足りない、とか、睡眠不足で眠い、とか、そんな場合には、親がちゃちゃっと着替えを選んだり、最初から歯磨きの仕上げに入ったりすることがあります。そのとき、掛け算をしたままだと、「親の都合で子どもの教育の機会を奪ってしまったのではないか」のように、ちょっとした自己嫌悪がやってきます。まあ確かにそれはそうかもしれないのですが、これでは窮屈です。だから、付け加えた意味を取り払い、歯磨きは歯磨き、着替えは着替え、身支度は身支度というように、やるべき行動をそのまま捉えることにします。これが割り算です。
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割り算は、知らないうちに自分でかってに付け加えてしまった意味を取り払うにも、有効です。
たとえば、難しそうな仕事に取り組もうとするときに襲ってくる不安や恐怖の原因は、その仕事の客観的な難しさではなく、えてして、その仕事を失敗したときに誰かから馬鹿にされるのではないか、とか、その仕事の質があまり高くないことで誰かをがっかりさせるのではないか、とかいった心配だったりします。
でも、ここには、(多くの場合は無意識に)自分がした掛け算があります。「○○さんに馬鹿にされるのではないか」という恐怖は、「仕事を通じて○○さんからの高評価を獲得する。○○さんを見返す。」という掛け算の裏返しです。「●●さんをがっかりさせるのではないか」という不安は、「仕事を通じて●●さんからの期待に応える。」という掛け算の裏返しです。これらの掛け算によって高いモチベーションが湧いてくるならそのままでも構いませんが、恐怖や不安が襲ってくるために動きが悪くなるのであれば、むしろ割り算で取り払ってしまったほうがよほどましです。
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自分が付け加えた意味を取り払えば、多くの場合、やるべき行動そのものは、そんなに重たくありません。これが割り算の効用です。
【まとめと展望】
今回は、精神的なキャパシティが低い私が生き延びるために工夫してきた行動指針を、四則演算の形で、まとめました。
- [足し算]行動を増やす
- [引き算]行動を減らす
- [掛け算]行動に意味を付け加える
- [割り算]行動から意味を取り払う
増やす/減らす、意味を付け加える/意味を取り払うの2セットを使い分けて行動することで、少しずつ状況を変えていくことができる気がしています。
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ちなみに、四則演算の行動指針とのセットで、微分積分の現実認識方法というものも考えています。
つまり、何らかの行動をとれば、その分、現実が変化します。その次の行動は、変化した現実を踏まえたものでなければいけません。だから、行動するだけでは不十分であり、変化し続ける現実を認識し、評価することも必要です。
この、変化し続ける現実を認識し、評価する方法が、微分積分のような感じじゃないか、ということです。
- [値そのもの]=現実を素直に見る
- [微分]=この瞬間の動きを見る(フローを評価する)
- [積分]=これまでの歴史を見る(ストックを評価する)
ただ、このあたりはまだあまり整理できていないので、いつかまた別の機会に書こうと思います。
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次回は、連載に戻り、ブログを読書に活用することを考えてみます。
ではまた2週間後に。
共働き家庭のワーキングパパ。子育てと読書とブログに没頭しつつ、持続可能な毎日を送り続けることを大切にしています。
2012年3月、ブログ「単純作業に心を込めて」を始めました。WorkFlowyを中心に、毎日に彩りを加える方法を試行錯誤してる経過を報告しています。
2016年1月、『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』という本を書きました。WorkFlowyと個人の知的生産がテーマです。
BLOG:単純作業に心を込めて
Twitter:@irodraw