タスクマネジメント仕事術と、発達障害児支援TEACCHの意外な共通点

こんにちは。ひばち と申します。

私は普段、大きく分けて2つの活動を行っています。

1つは、お仕事としての「障害を抱えた方への支援業務」
こちらは、社会福祉法人に所属しながら、メインワークとして行っているものです。

もう1つは、「環境作り」や「タスクマネジメント」に重点を置いた仕事術の普及活動
こちらは、同じ想いを持った人たちとパラレルワークとして行っています。

タスクマネジメント仕事術

頭の中に抱え込んでいる多くの「やること=ToDo」を書き出し、整理して、今やるべきことだけ集中する ─このようないわゆる「ToDo リスト」を活用する仕事術というのは、以前から広く使われていたものです。

もはや意識することなく日々の仕事の中で当然のように行っている人も多いのではないでしょうか。

この仕事術が、一般に「タスクマネジメント」「タスク管理」として体系的に語られるようになったのは、ブロガーの中でライフハック文化が広まったことによる影響が大きいと考えられます。

また、「働き方改革」が日本中の様々な企業で進められている今、「タスクマネジメント」の重要性は、より高くなってきていると日々感じています。

この「タスクマネジメント」という考え方、実は「仕事のやり方」だけの話ではありません

一見何の関係もない「発達障害児の支援」という領域においても共通する理念のようなものを感じ取ることができるのです。

支援プログラムTEACCHにおける「構造化」

発達障害児の支援において、「TEACCH」と呼ばれるプログラムがあります。

これは、自閉症児とその家族への支援を目的に構築されたもので、「Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped CHildren(自閉症及び、それに準ずるコミュニケーション課題を抱える子ども向けのケアと教育)」の頭文字が取られたものです。

そして、この「TEACCH」における重要な要素のひとつに「構造化」というものがあげられます。

意味、概念、表象、認知などの機能に重い障害がある自閉症の子どもに、治療教育的支援をするにあたって、彼らが生活や学習の場の意味を理解し、自分に何が期待されているかを分かりやすくするための工夫として、生活や学習などの環境やスケジュールなどを視覚的に構造化(Visual Structuring)する方法が世界の各地で実施され、成果が確認されている。すなわち構造化とは、自閉症のある子どもに周囲で何が起こっているのか、そして彼ら一人ひとりの機能に合わせて、何をすればよいのかを分かりやすく提示する方法である。 ―自閉症児のためのTEACCHハンドブック

主な構造化としては、

  • 視覚的構造化
  • 物理的構造化
  • 時間の構造化
  • ワークシステム
  • ルーティン

などがあり、これらは特に自閉症を抱える児童にとって「世界の見え方」を分かりやすくする効果的な方法として特別支援教育の現場などでも広く用いられています。

「タスクマネジメント」と「構造化」の共通項

この構造化の考え方は「タスクマネジメント」を行う上で必要とされている要素と意外なほどマッチしています。順番に診ていきましょう。

視覚的構造化

自閉症の子どもや人が、視覚的な情報に親和性が豊かで、意味や概念を
見いだして適応する傾向や特性が強いことはよく知られている。(中略) TEACCHプログラムの実践者が、教育やその他の支援の場面で、相手の機能に合わせて、必要な程度や内容で、視覚的構造化と呼ぶ手法を用いながら、広くコミュニケーションを求め合うように支援するのはそのためであり、成果の大きさもその結果である。―自閉症児のためのTEACCHハンドブック

視覚的構造化とは、「目に見えるように(視覚的に理解しやすいように)書き出したり、図や絵で物事を表したりする」ことです。

近年、積極的に活用されることの多くなったユニバーサルデザインにも同じ思想を見ることができます。街中を歩いていても、文字情報以外に「図」や「絵」が描かれている標識や看板をよく見かけるようになりました。

タスクマネジメントにおいても、頭の中に抱えるタスクを頭の外に書き出し、目に見える形にすることで、自分の抱えている仕事や考えを整理しやすくしたりします。

物理的構造化

生活や学習の環境(場面や情報)を構造化して与えるアイディアの中には、まず場面の「物理的構造化」がある。
住宅の内部や学校の教室内を、家具、ついたて、カーペットなどを用いて、その配置に工夫を凝らして、子どもが各場所や場面の意味を視覚的に理解しやすくすることである。―自閉症児のためのTEACCHハンドブック

物理的構造化は「その人に合った、モノの配置に整える」ことです。

タスクマネジメントを実践する際にも、作業に集中しやすくなるよう、タスクを実行しやすいよう、モチベーションを保てるよう、自分をとりまく環境を整備する必要があります。

時間の構造化

自閉症の子どもの不安や混乱を除いて、毎日の学習がスムーズに進行するようにするための構造化の方策として、 1日 のスケジュール(時間割)を作成し、それを、必ず前もって予告することがきわめて有用である。子どもの情緒を安定させ、学習の成果を大きくする。―自閉症児のためのTEACCHハンドブック

時間の構造化は、「時間を区切ったり、スケジュールを明確にしたりする」ことです。

時間を区切ることは、つまり1日を幾つかのセクション(時間割)に分けるということでもあります。そうすることで、どの時間帯にどの仕事を行えば良いか、決断しやすくなります。またスケジュールを明確にする(カレンダーを使用する)ことで、タスクの管理はより行いやすくなります。

ワークシステム

ワーク・システムと呼ばれる方策は、教師や指導者が絶えず密着して指示や指導をしなくても、課題の意味、手順、量などを理解して、「一人で自立して」一連の学習や作業などの活動ができるようにするためのものである。―自閉症児のためのTEACCHハンドブック

ワーク・システムは、「手順書を作ったりして、自発的に行える仕組みを作る」ことです。

タスクマネジメントでも、同じ手続きを要するタスクは、料理におけるレシピのように手順書を作り、その通りに行うことでストレスやミスを軽減することができます。

ルーティン

自閉症の子どもは、日常生活に多くの日課となるようなルーチン・プログラムを豊富に取り入れて、習慣的な生活を送ることを好む。そのため予期しないことに直面したり、何をしたらよいのか分からずに困惑するような場面や時間を減らして、学校でも家庭でも、不安のない落ち着いた気持ちで生活ができるように、余暇活動の内容やレパートリーについては、最も多くの時間をいっしょに過ごす両親の希望に添って、家庭内の活動から選ぶことが大切である。―自閉症児のためのTEACCHハンドブック

ルーティン(ルーチン)は、「繰り返しや習慣的な行動を活用する」ということです。

例えば「朝起きてから出発まで」「帰って来てから、お風呂に入るまで」などの行動を、可能な限り「同じ手順で同じ時間に同じ動き」とすることで、安心かつ低負担でやるべきことを実行できるようになります。

タスクマネジメントと発達障害児支援の可能性

このように、5つの主要な構造化は「タスクマネジメント」を行う際に重要な「書き出す」「環境を整える」「時間を区切る」「手順書を作る」「ルーティン化する」という要素と見事に共通しているということが分かります。

このことから、以下のように考えることができるのではないでしょうか。

1つには、「TEACCH」における構造化とは、何も自閉症児への支援のみに効果がある訳ではなく、誰にとっても有用だということ。

例えば、小学校に入学したての児童の場合、新しい環境の中で入学前と全く異なる生活リズムを送っていくことに誰もがはじめは戸惑うものですが、翌日の登校までに準備すべきものを目に見えるように書き出したり(視覚的構造化)、起床から登校までの身支度の仕方を一緒に決めて守ったり(ルーティン)など、構造化を生活習慣の中に取り入れることで、よりスムーズに新生活のスタートを切ることができるようになるともいえるでしょう。

2つ目に、「タスクマネジメント」は単なるライフハックの一つとしてだけでなく、発達障害児(者)の支援にも存分に活用できる可能性があるということです。

「TEACCH」と「タスクマネジメント」の意外な共通点は、ライフハック文化の新たな広がりを予感させるものでもあります。

双方の世界に深く関わってきた者としては、これらが「生きづらさを抱えている人たち」への何らかの解決策になればと、切に願わずにはいられません。

また、構造化の考え方は「仕事の見通しを持てない」「モチベーションが上がらない」「集中が持続しない」といった状況に対する、処方箋になり得ます。

自他共に仕事やプライベートを充実させる上でも、構造化やタスクマネジメントの考え方が、あなたにとっての快適な環境作りのヒントになることを願っています。

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