発想のために「ディベートモード」のスイッチを入れてみよう

ぱうぜセンセのコメントボックス
基礎ゼミ中間レポート講評中。今度はさくらさんのレポートだ。
「我田引水にならないように、自分と異なる意見をもつ『悪魔の代弁人』をたててみて、ってコメントが付いてますけど」
「悪魔の代弁人って?」議論を深めるために必要な視点とは
異なる立場からの批判に耐える議論を作りましょう

さくらさんも読んでくれたみたいなんだけど、まだ納得がいかないようだ。

「議論の深め方って具体的にはどうやるんですか?」

そうだな、そろそろディベートモードを導入してみようかな。


(前回のお話はこちら)「これ、書ききれるかな?」テーマを上手くリサイズしよう

ディベートって何だろう

「悪魔の代弁人っていう考え方は、ディベートと深く関係があるんだけど・・・ディベートってわかるかな?」

あまり反応が無いなあ。さくらさんだけでなく、映二君も文哉・真理哉兄弟も、顔をそむけちゃった。

「そもそもディベートって何だろうってところから揉めはじめると困るから、ここはある本から引用してみよう」

ディベートとは、
「ある論題に対して対立する立場をとる話し手が、
聞き手論理的に説得することを目的として
議論を展開するコミュニケーションの形態」である。
(松本茂・河野哲也『大学生のための「読む・書く・プレゼン・ディベート」の方法』玉川大学出版部、2007年、129-130頁。強調は引用者による。)

「これだけだとわかりにくいです」

「議論を展開、ってどんなことするんですか?」

「うーんと、私が考えているディベートのポイントをまとめると、以下のようになるね」

①必ず賛成・反対のどちらかに立つ

②その立場をとったときのメリット・デメリットを比較する

③自分個人の意見からは離れる

「こんなことを身につける、ルールが決まった討論のことを、ディベートというんだ」

よくある誤解

「センセ、ちょっといいですか」

映二くんがおずおずと語り出した。

「俺、中学2年のとき、授業でディベートやったんです。でも、あまりいい思い出がないんですよ」

「どうして?」

「相手チームとものすごく仲が悪くなっちゃったんです。俺が言うこと真面目に聞いてくれないし、全然話がかみ合わないし。死刑廃止の是非っていうテーマだったんですけど、死刑賛成側に回ってたら『あいつの言ってることは人として間違ってる』とか言われて、キレちゃって…なんか罵倒しあってるような感じになっちゃって…」

「あー、そういうのってしらけちゃうよね。テレビの討論番組とかも、どうしてケンカっぽくなってるのかわけわかんないし」

さくらさんも身に覚えがあるようだ。

「ええとね、それは良くある誤解なんだ。映二くん、そのときのことを思い出してほしいんだけど、君たちは誰に向かってしゃべっていたのかな?」

「え、そりゃ相手チーム・・・」

「もしそれをディベートと言ってたのなら、あたしが勉強してきたものとはちょっと違うな。ディベートのポイントは、あくまで聴き手であるジャッジ(審判)を説得することなんだ」
瀧本哲史『武器としての決断思考』(星海社新書、2011年)59頁にも、同じ趣旨のことが書いてあります。


ディベートは賛成側、反対側交互に発言していきますが、最後はジャッジがメリットとデメリットを比較します。

「勝つことが目的だと考えてしまうと、相手を言い負かせばいいような気がしてくる。でも、目的は『聴き手を論理的に説得する』ことなんだ。相手を罵倒したりしても、勝ち目はない」

「それも、自分個人の見解とは離れて、ですか」

「そう。君個人としては『死刑どうかなー、迷うなー』と思ってたとしても、ゲームのポジションとして賛成側に回るんだったら、死刑があることによるメリット、死刑を廃止することによるデメリットを語っていくしかない」

「そうすると、相手チームの『あいつは人として間違ってる』っていうのもお門違いですね」

「そう。映二くんは死刑賛成論者の立場にたっている役割を全うしているんだから、人格攻撃になるのはおかしいよね」

レポート課題と「ディベートモード」の関係

「それでセンセ、なんでこれがレポート課題に結びつくんですか?たんなるゲームじゃないんですか?」

「もうちょっとだけ、ディベートの特徴について話そう。ディベートっていうのは、『~~について』っていう漠然としたテーマじゃなくて、『○○すべきか、否か』とか、『○○は是か非か』という二者択一になるような、論じるに足りる、明確に答えが出る論題を選ぶこと(瀧本哲史・前掲書78-82頁)が肝心なんだ」

「どうしてですか?」

「この条件であれば、色々な議論を踏まえて、メリットとデメリットを出し尽くした結果今のところはこういう結論になる、という選択をすることができるからなんだ。主張・理由・証拠という三点セットをたくさん積み重ねていって、メリットとデメリットを比較して、今のところの最善解はこういう結論ですという決断をしていくことになる(参照、瀧本哲史・前掲書45-46頁)」

「あー、『進路について考えよう』だといろんな選択肢がありすぎてまとまりそうにないですね」

「いくら『自分の意見とは違う事を考えよう』って言ったって、突拍子もない議論がでてきても困るなあ」

「それだったら、思い切って、ひとつひとつについて『~~するべきか否か』というかたちに直してみるといい、って書いてあるね(瀧本哲史・前掲書84-86頁)。『大学院に行くべきか否か』、『A社に就職すべきか否か』、『B社に就職すべきか否か』っていう形に直して、それぞれのメリットとデメリットを出し尽くす。それもできる限り具体的な形でね」

「自分の中でディベートをしてみる、ってことですね」

はい。このような心持ちになることを、私自身は「ディベートモード」と呼んでいます。

「場合によっては『やっぱり大学院はないなー』と否定側が勝ったりするかも」

「もしかして、こういう小さな論題をつなげていくと、大きな話にまた戻っていくんですかね」

「そうだね。いきなり進路どうしよ、と考えはじめるよりは、『大学院に行くことはどれくらいのコストがかかるのか』『A社に就職することは何を得て何を諦めることになるのか』とか、ひとつひとつの論題についてメリットとデメリットを出し尽くしてからもう一度『進路について考えよう』というレベルに戻っていけば、決断の助けになるはずだよ」

「これって、前々回の『発想→整想→成果物』だとどこにあたるんでしょうか」

発想→「整想」→成果物!伝わるように産み出すための3つのステップ
作成段階のどこに居るのかを意識することが大切です

「一度ディベートをしてみると、実に色々なメリットやデメリットのかけらが見つかる。そういう意味では、発想を助けるモードという感じがするね。レポート課題についてある程度調べが進んだら、自分の中でディベートをするつもりで、小さな論題を仮定して色々考えてみるといい」

「発想のためのディベート、ですか・・・で、どうやってやるんですか、ディベート」

「あ、ちょっと長くなってきたから一旦休憩しよう」

◇ぱうぜセンセのメモ◇

こんな感じで語っているけど、あたしのディベート歴はESSで3大会出ただけくらいだから、筋金入りのディベーターの皆さんからすると浅い理解なんだよなあ。上手く伝えられるといいんだけど。
そうそう、ジャッジに向かって語れというのはいつも言われたことだった。「あなたたち(you)はこう言っている」じゃなくて、「彼ら/彼女ら(they)はこう言っている」と切り出して批判しろ、ってね。そうしてみると、映二くんの中学校での経験も、よくあることなんだろうなあ。

編集後記

今回はアシタノワークショップと基礎ゼミでやった内容です。きちんとディベートを学んだ人からみるとツッコミどころがあるかもしれませんので、ご意見お待ちしております。今のところ、学生からディベートについて聞かれたら、上述の二冊をお勧めすることにしています。次回以降、フローシートなどについても書いていきたいと思います。

ぜひ皆さん、「バーチャルコメントボックス」に質問をお寄せください。Twitterで @kfpause宛てにツイートしていただいても結構ですし、 #ashitano をつけて投稿していただければ適宜拾いますので、どしどしお寄せください。

ぱうぜ

2013年春から大学教員になった駆け出しの研究者。専門は行政法。
個人ブログとして対話をテーマとした「カフェパウゼをあなたと」を運営中。
http://kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp/

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