書き手目線から読み手目線へ!最後の仕上げに「見取り図シート」~ぱうコメ卒論編その4


ぱうぜセンセのコメントボックス
【前回までのお話】卒業論文を書くためのマイルストーンを決めた進吾くん、明日香さん。ぱうぜセンセは3つの課題を出してきた。
いよいよ提出二週間前。【第三の課題】として、「とにかく年末に今の時点の卒業論文ファイルを提出すること」と言われた二人。
どうにか出してみたけれど・・・年明けすぐのぱうぜ研究室では、進吾くんが不機嫌な顔でぼやいていた。
「センセ、オレ、どうにもこうにも、『おわりに』が書けないんすよ」
あれれ、進吾くんはかなり順調そうだったじゃないか。

「卒論の『おわりに』は、どうしたらいいんですかね?」

何を書いたらいいかわからなかった明日香さんとはまた違う悩みがありそうだね。

(前回のお話はこちら)ふせんシートとにらめっこ!適切にリサイズしよう~ぱうコメ卒論編その3

順調に書き進めてきた人が陥りがちな罠

「えー、進吾くん、進捗報告のときは余裕そうだったじゃない」
前回、悩みに悩んで自分の書きたいことがようやく定まった明日香さんは、不思議そうにしている。
そうだよね、進吾くんはかなり早い段階から、自分の取り組みたいテーマが決まってたよね?
「そうなんすよ、コンパクトシティ論と、人口減少社会と、空き家対策。この3つ、お互いに関係あるとにらんでて、実際に取り組んでる自治体の例も見つかったんだけど」
「え、それでかなり良いんじゃないの?」
「でも、『おわりに』でどう閉めていいのかわかんないんすよ」
「あー、あたしも、こないだの『ふせんシート』でより分けておいた『がまんすること』エリアのアイデアをどうしていいのかわかんないです!」
あ、そういえばその話しそびれていたなあ・・・しょうがない、まとめてコメントするかな。

「はじめに」と「おわりに」の役割を確認しよう

「それじゃあ、あらためて聞くけどさ、『はじめに』と『おわりに』って、何を書くんだと思う?」
「ええと・・・『はじめに』については、既にアウトライン[概要版]のときにセンセが説明してましたよね?」
かすみちゃん、良く覚えているなあ。

論文のガイコツ?アウトラインを育てていこう~ぱうコメ卒論編その2

「ああそっか、『この論文で何の問題に答えるのか、どうしてそれを考えることにしたのか、どういう手法で解明するのか』を書けば良いんですね」
「そうそう。論文の世界に、読み手を誘うんだ。なんでこの著者はそれにこだわるのか、答えるべき問いなのかどうかを書くんだね」
「それじゃ、『おわりに』は何だろう?」
「分野や手法にもよるけど、大きく分けて言うと二つあるかな。ひとつは、『はじめに』で建てた問いに対して、本論で述べてきたことからは答えが言えそうなのか、という結論
いわば、論文全体のまとめ、というわけだね。
「もうひとつは?」
「正直に言うよ。『この論文では解明することができなかった事柄』だ」
「え~っ!そんな、中途答案のようなことしていいんですか?!」
あれまあ、かすみさん、そんな大声上げないでよ。
「だって、先輩たち、とても頑張って資料集めて、書いてるんですよ!センセがそんなに弱気になってどうするんですか!」
「いや、まあ、あの、落ち着いて・・・・・・」
かすみさん、意外と熱血なんだなあ。進吾くんがびっくりしている。
「ああ、でもかすみちゃん、これなんですよ!『がまんすること』!そうですよね、センセ!」
「そのとおりだよ、明日香さん。『出来なかったことの言い訳』ではないんだよ。今回の調査と考察と手法では、どうしてもたどり着けなかった問題がある。
しかし、論文を書くことで、『さらなる問題は何か』ということに気がついたというわけだ。それはそれで、きちんと『将来の課題』として積み残せばよい
「そうか、そうなんだ・・・俺、今回の論文じゃぜんぜんわからなかったことが多くて、それをどうしたらいいのかわかんなかったんすよ」
特に進吾くんはたくさん調べたからね・・・・・・行政法だけじゃなく、公共政策や経済学の観点からも考察しなきゃいけないことがたくさんある課題だった。
「論文には『主張・理由・証拠』が揃ってないとダメ、って言ったよね?それを全てそろえて書けるのって、限りがある。
でも、論文を書いていく内に、『まだ証拠は出そろってないけど、こういう問題もありそうだよな』とか、いろいろ次の課題が見つかるだろう。
今回は時間切れで間に合わなかった項目もあるかもしれない。そういう、『将来の人たち(自分も含む)へのバトン』を、『おわりに』の終わりに書いたって良いんだよ」
「そっかー・・・なんか、肩の荷が下りました」

書き手目線から読み手目線に直そう

「論文の仕上げにはもう一つ大事な要素があるよ。これまでの議論にも出てきたけど、気がついたかな」
これが、卒業論文を書くことの最大の効用でもあり、最大の難関でもあるところだ。気がつくかな。
・・・・・・。三人とも、長い沈黙。少し難しいかな?ヒントを出そうか。
「ええと、先輩、さっき3つキーワード出してくださいましたけど、結局どういうことなんですか?」
長い沈黙に耐えられなかったのか、かすみさんが進吾くんに問いかけた。
「それはね・・・・・・」
「おおっと、ちょっとまったー!」
「ふえぇぇ!センセ、何するんですか」
「かすみさん、大変いいアシストだね!どうしてその問いに至ったんだい?」
「え、ええと・・・進吾先輩のなかではなんかうまくまとまっているみたいなんですけど、私、頭が良くないからなのか、よくわからなくて」
「いやいや、かすみちゃんが頭悪いってことはないでしょ。進吾くん、いつも先走っちゃって、説明不足なんだよ」
おっと、なんか明日香さん、手厳しいな。
「まあ、実はそれが正解。進吾くん、『書き手目線から読み手目線に直す』っていう作業が、最後の仕上げとして重要なんだ」
「どういうことっすか?」
「論文をどんどん書いていくときは、書き手としての興味で突き進んでかまわない。でもね、最終的な成果物にするまでの間に、読み手のことを考えた順番にしたり、文章を書き加えたり、見出しのレベルをそろえたりする必要があるんだ」
「あー、そういえば、そんなこと考えたことなかったっす」
「それじゃ、『はじめに』『終わりに』を考えることと、『読み手目線での見直し』をかねて、『見取り図シート』をつくってみよう」

見取り図シートをつくってみよう

「あ、また出てくるんですね、A3の大きな紙」
「行き詰まっちゃったときは、とにかく大きめの白い紙を広げてみるんだ。今度はふせんは使わなくてもいい」

トップダウンの見取り図シート
やり方:ふせんシートや「論文のパーツ」をみながら、次のエリアを、埋められるところから埋めてみよう
【シート上段:全体図】「この論文で何がわかったのか?」を示す図を、ためしに書いてみよう
【シート下段左側:はじめに】この論文を書くきっかけになったこと・この論文で答えたいこと
【シート下段右側:おわりに】この論文でいろいろ考えてわかったこと・この論文では扱いきれなかったこと(=「将来の課題」)
【シート下段中心:本論】主張・理由・証拠がそろって説明したり、紹介したりできていることがら
もし、「あまりよい資料が集まらなかった」「よくわからないままだ」という事柄があれば、【おわりに】に回してしまおう。

「埋められるところから?」
「そうそう。ざっくりとした見取り図でかまわないんだ。『ためしにやってみっか』という心持ちでいい。なんなら、書き直してもいい」
「論文を見ながら書いた方が良いんですか?」
「うーん、もともとの順番に引きずられないようにしたほうがいいこともあるね。ほんとうに、『一からまったく読んだことがない読者に説明するとしたら』って、考えてみるんだ」
「強制的に、書き手目線での順番をリセットして、読み手目線でちゃんとした順番になってるかを考えてみるんですね」
「まあ、とりあえず、やってみますわ」
進吾くんは腕まくりして取り組み始めた。さて、しばしのコーヒータイム。
「できました!」
そういって進吾くんが見せてくれたのがこちら。

「書いてみて気がつきました。俺、本論の最終章部分、ちょっと順序変えますね。そのほうが、『おわりに』での結論に結びつきやすそうです」
「こうやって見てると、なんかいろんな事思い出しますね・・・センセ、これってもしかして、『整想』ですよね?」
そうご名答。これ、実はレポート指導の続きなんだよ。

発想→「整想」→成果物!伝わるように産み出すための3つのステップ

「あのときはこう言ったね」

「伝わりやすさを意識して、大事なものを選び取ったり、並べ替えたり、構造化する必要がある」

「どんなに論文が長くなっても、この基本は同じだ。長く時間をかけたからこそ、『読み手目線』できちんと伝わる順序になっているかどうか、もう一度考えてみると良いんだよ。論文の森で一つ一つの樹を育てていると、ついつい全体が見えなくなる。それを、『見取り図シート』をつくることで、解消できるんだ」
「そうか、これって『はじめに』と『おわりに』にフォーカスしてますもんね」
「思い切った省略をしてみると、全体の構図がわかりやすくなるんだよ」
「あきらめちゃった『がまんしたこと』も、将来につなげればいいんですしね」

提出前に「読み手」をつくる効用

「センセ、もう一つ、レポート指導を思い出した方が良さそうですね」
進吾くんの作業を待っている間、かすみさんがそうつぶやいた。
「どういうこと?」
「実は・・・明日香さん、主語がないまま長い文章を書いちゃったり、段落のあたまとおしりとがかみあってない文章が結構あるんです」
あー、ピアレビューの回のことをいいたいんだね。

レポート”ピアレビュー”のすすめ~提出前に「他人の目」をいれておこう

「先輩には、あとでそっと手直し箇所を教えておくことにしますね」
「かすみさん、ナイスフォロー。進吾くんもあわてて書き直しそうだから、ちょっと頼むね」
「はい!最初の読者になれてうれしいです」

◇ぱうぜセンセのメモ◇

卒論って、ほんと、総力戦だよなあ。それだけに、学生相互の助け合いも、それぞれの学生の伸びしろもすごいんだよな。最後までがんばれ。

編集後記

これまた実話に基づいた回です。提供してくださった学生に感謝します。
「その3」のふせんシートはいわばボトムアップ型、「その4」の見取り図シートはトップダウン型のアウトライン操作を、アナログなやり方でやってみるためのご提案です。
アウトライナーに習熟している方は自然とやっている操作だと思いますが、あまり慣れていない人にもこういうやり方があるよ、という一例でした。
アウトライナーの使い方についてはTak.さんの本を参考にしてください。彼のいう「シェイク」は、このボトムアップとトップダウンの行き来のことを指しています。

さて、次回、最終回。進吾くん、明日香さんの卒業式です。

ぱうぜ
2013年春から大学教員になった駆け出しの研究者。専門は行政法。 個人ブログとして対話をテーマとした「カフェパウゼをあなたと」を運営中。
コーヒー片手に語らいを!わたしと、みんなと、そしてあなた自身の過去・未来と。

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