ふせんシートとにらめっこ!適切にリサイズしよう~ぱうコメ卒論編その3

ぱうぜセンセのコメントボックス
【前回までのお話】論文のガイコツ、そして進捗報告と、マイルストーンを決めて徐々に卒論を進めてきた進吾くんと明日香さん。
論文提出まであと1ヶ月、という段階での【第2の課題】。進捗報告の場で、明日香さんがこう切り出した。
「はあ・・・・・・センセ、あたし、卒論出せそうにありません」
どうして?あんなに調べていたじゃないか。

どう進めたらいいかわからない・・・たくさんの資料、どうしましょう?

そういって彼女がもってきたのは、大量の資料。このさきどう進めていいかわからなくなっちゃったみたいだ。さて、どうしようか。

(前回のお話はこちら)論文のガイコツ?アウトラインを育てていこう~ぱうコメ卒論編その2

一生懸命調べたけれど

「先行文献を集めたり、インタビュー調査に行ったり、大活躍だったじゃないですか。先輩、どうしちゃったんですか?」
かすみさんは不思議そうに問いかけた。
進捗報告など、マイルストーンになる場面では、下級生のゼミと合同で行っている。
このセリフ、私が言うと圧迫っぽくなっちゃうから、ここは仲の良い後輩であるかすみさんに任せてみよう。
「うん、一生懸命調べたのはいいんだけど、どの文献ももっともだなあと思えて・・・何を書いていいかわからなくなっちゃったんだよ」
ああ、真面目な人によくあることだなあ。
「災害対策を考えなきゃ、と思って調べたんだったら、それにそってまとめればいいんじゃねえの?」
進吾くんは手厳しい。
「うう、『○○がわかった』『○○と言われている』、そういうことは書けるんですよ。でも、それだけじゃ論文にならないでしょ?」
それはごもっとも。問いと、主張と、論拠がそろっていないといけないんだからね。
「いろんなことに詳しくなれたとは思うんです。でも、このままだと卒論にならないんですよ、どうしましょう・・・」
それじゃ、こいつの出番だな。

並べ方はどうでもいい~ふせんシートのススメ

「まあまあ明日香さん。落ち着いてさ、時間をとってやってみようよ」
「センセ、何を始めるんですか?」
「明日香さんはね、調べた結果いろんなことがわかったんだけど、論文の中でどの情報や見解が意味を持つのか、大事なことなのかがわかっていないんだ」
「それだったら、前に論文のガイコツを書きましたよね?」
「かすみちゃん、いいところに気がついたね。あのガイコツ、論文の進行に従った組み替えが必要なのさ」
「どうやってやるんですか?」
「明日香さん、今まで調べてきたことが、どういう風に【アウトライン】と関係するかわかるかい?」
「ええと・・・うーんと・・・」
「いわば、今まで調べてきたことっていうのは、論文の肉の部分なんだ。いろんな部品があるから、まずは、どんな部品があるのかを頭の中から紙に出してみよう
「でも、正しい順序なんてわかりませんよ」
だから、一旦整理するためにも、次のことをやってみよう。ふせんを使えばいいんだ。

【ふせんシートのすすめ】
用意するもの:
A3位の大きな紙 または 見開きでA3になるA4ノート
正方形のふせん(少し大きめでも、ミニサイズでもよし)
書きやすいペン(色にはこだわらない)

やり方:
1)今まで調べてきたこと、考えてきたことを、小見出しや短文でどんどん付せんに書き出して、シートに貼りつける
2)ある程度たまったらグループ分けして貼り直してみよう
3)やっている途中に思いついたことがあったらどんどんふせんを増やしてみよう
4)その中で、「主張」「理由」「証拠」がそろった論文の「幹」となりそうなものは何かを考えてみよう
5)なかなかあてはまらないふせんも捨てずに、「がまんするゾーン」に入れておこう

「ひととおり終わったら、シートの写真を撮っておくといいよ。もし違う並び順が見つかったらまた並び替えればいいんだし」
「これ、なんか遠回りじゃないですか・・・・・・?」
「そんなことないよ、だまされたと思ってやってごらん。できたら進吾くんも」
これ、初回にやるとだいたい2時間くらいかかる。その間、コーヒーを飲んで一休み。
「・・・ちょっと終わらないかもしれないんで、また明日来てもいいですか?」
おお、完全にスイッチが入ったみたいだ。

ふせんシートの狙い

そして翌日。
「センセ、出来ました!こんな感じです!」
どれどれ、見てみよう。

「あれ、これってもしかして」
「そうです!ふせんをはったあと、上からビニールシートをかぶせて、それでいろいろキーワード書きながら考えてみたんです!」
「ビニールシート?ああ、こないだ言ってたね、大掃除してたら要らないテーブルクロスが出てきたって」
「はい、それです。NUBoardをヒントにしてみました」
それだったら、クリアファイルを切り開いたものでも大丈夫だね。
「これでようやくわかりました・・・・・・あたし、災害のなかでも地震のことがやりたかったんです!公共空間のありかたについて、まとめ直してみます」
そうだね、ようやく何に力点を置いて書いたらいいのかが見えてきたんだね。
「きちんと書き切れる範囲には限りがあるから、資料を集めきった段階で一旦サイズを変えるんだ。これができると前に進めるね」
ふせんシートの力を借りたリサイズ、うまくいきそうだ。

◇ぱうぜセンセのメモ◇

それにしても明日香さんのふせんシート、「がまんするゾーン」が多いなあ。かなり広い関心に基づいて考えて調べていたんだね。しかも、このシートのタイトルがすごい。日付+「卒論ひとりワークショップver.3」だって。ver.1とver.2もあるんだろう。

編集後記

この付せんシートの元ネタは、多数の知的生産系の本にあります。梅棹忠夫『知的生産の技術』のこざね法、あるいは川喜田二郎『発想法』のKJ法と、本質的には同じことをやっています。
(*初出時、誤りがありましたので訂正しました。ご指摘ありがとうございます。)

頭から取り出すこと、そのあと俯瞰して並べ替えること。
この二つを同時にやるのは大変ですよね。
また、実際に卒論指導をしてみると、「とにかく手を動かす」ことの大事さを再認識しました。迷子になりそうになったら、いったん「書き出す」ことにチャレンジして、他のことを忘れてみる。そんな時間を研究室で過ごした学生は皆、なんとか卒論を書き上げることができました。今回の写真(白黒ですみません)も、その一人から提供を受けたものです。

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