すべて地続きのこの世界で歩み続けるために~ぱうコメ最終回の贈る言葉

ぱうぜセンセのコメントボックス
【前回までのお話】なんとか卒論を提出し、卒業単位をそろえた明日香さんと進吾くん。ついに、卒業式の日がやってきた。
「センセー居ますかー?修了証書もらってきたっす」
謝恩会までの時間、研究室に待機して執筆していると、ぞろぞろとみんながやってきた。さてさて、最後のカフェパウゼだね。
「それにしても、4年間あっという間でしたね」
そうか、明日香さんが泣きそうな顔をして飛び込んできたのは一年生の頃だから、ちょうど4年なんだね。
「センセ、俺たちのこと、こんな風に書き残してたんですね。たしかにブログのネタにするとは聞いてましたけど、まとめて読んでみたのは初めてっす」
後からやってきたかすみさんとは違って、進吾くんはこの「ぱうぜセンセのコメントボックス」をあまり読んでなかったようだ。
「ひとつひとつの質問と答え、『あーあのときのあれだー』って感じですね」
「いろんな人が来てたんですね」
ぱうぜ研究室には来訪ノート(兼、図書貸し出し記録)がある。
「かすみちゃんが来てから、ツッコミ役が増えて助かったよ」
「・・・センセ、最後の質問、いいですか?」
改まって何だい?どきどきするな。

「卒業にあたって、この先心がけておいたほうがいいこと・・・『贈る言葉』ください!」

おお、最終回にふさわしいセリフだね。さて、どうしようか。

(前回のお話はこちら)書き手目線から読み手目線へ!最後の仕上げに「見取り図シート」~ぱうコメ卒論編その4

この「研究室トーク」の狙い

「そうだね・・・・・・それは、この研究室で皆さんに伝えたかったことと関わるんだけど、いいかな?」
「なんか、ちょっと長い話になりそうですね」
「君らに伝えたかったこと。そして、このブログでずっと伝えたかったこと。それはね、大学での学びとこれからの人生は、地続きだ、ということだ。この世界は、どこまでも地続きなんだよ
「どういうことっすか?」
「大学教員になったばかりの頃。別に私は『教え方』を学んだうえで教員になっているわけじゃないからね。君らから飛び出してくる質問に、どうしたものか、結構悩んだんだ」
「その際はおさわがせしました・・・」
あれま、凹む必要はないよ、明日香さん。
「こっちも『社会人一年生』。君らは『大学生一年生』。どっちも一年生だったんだ」
「でも、センセはやっぱ最初っからセンセでしたよ」
「もし、そういうことなら、・・・・・・きっと、『大学や研究で得た学びは、社会に出てもつながっている』ということなんだよ。いちおう、君らよりは10年年上で、私自身が大学を卒業してから、いろんなことがあった」
「この『アシタノレシピ』ってサイトで執筆するきっかけになったことも、大学卒業してからのつながりですよね」
「そう。研究者の卵として修行してる傍らで、いろんな立場で活躍する友達に恵まれた。その中には、『社会人初心者にもっと明日を楽しくするための話を届けたい!』っていう仲間もいたんだよ」
そして、アシタノレシピもぱうぜも執筆してみたら、って話をもらったとき、考えたんだ。
「私のささやかな教員としての経験からしても、『大学生に教えることと、社会人初心者が悩むことってかなり共通してるじゃないか』と思ったんだよね。だったら、『大学生のために答えるという内容で、社会人の皆さんにも役に立つ内容が書けるんじゃないか』って思ったんだ」

大学で得たものとは何か、は後になってわかるかも

「でもセンセ、質問があります」
なに、かすみさん。
「センセ自身は、この『ぱうコメ』で書いたことを、大学で教わったわけじゃないんですよね?」
実は、この質問への答えは難しい。
「答えはイエスでもありノーでもある。確かに、大学のカリキュラムのなかにこれらの事柄があったわけじゃないんだ。まして、法学部出身で、卒論も書いていないしね」
「だったら、なんで、『大学での学びが社会人になってからも役に立つ』っていえるんですか?」
「そうだねえ・・・・・・後から考えてみると、これってこういうことだったんだ、っていう事柄がとても多いんだ
たくさんのバイトやサークルのかけもち。勉強と研究の違い。こういうことは、おそらくは私が大学生だったときにもあった事柄だったんだ。しかし、ちょっと気がつくのが遅かった。
「まじめにこういうことを考えるようになったのは、24歳ごろかな。新卒で就職していれば社会人二年目。まあ、私はロースクールに通っていて、研究大学院へ進学するための論文を書き始めた頃なんだけどね」
「奇しくも、『社会人二年目』と同世代のときなんですね」
「そう。おそらく、大学を卒業して、自分の進路を歩み始めて、そこで気がつくことが多いんだ。『卒論書いておけばよかった』って思うこともたくさんあったよ。研究室にいるとね、そんな若いときの悩みや苦悩を、君らが改めて提示してくれる」
「そうか、センセがセンセとして答えてくれていたのは」
「うん、自分もかつて似たような悩みをかかえていたからなんだよ」

社会人になったら、社会人になっても

「でもまだ心配なことがあります。大学にいるうちは、こうやってセンセにも質問できるし、図書館だって使えるし、調べ物しやすいです。でも、社会に出たら、そういうのと全部シャットダウンされてしまう気がするんです」
「あ、それ俺も思いました。大学生と違って、社会人だと思うようにいかないことたくさんあるんじゃないかって」
「まあ、時間は足りなくなるね・・・・・・でも、明日香さん。あなたもともと『時間の使い方がわかんない』って言ってたよね?」
「そういえばそうですね」
「それに、図書館とかだって、まだまだ使えるよ?うちの大学図書館は市民開放してるし、公共図書館は通常、在住者だけじゃなくて在勤者にも開放されていることが多い。勤務先そばの図書館施設も使えるんだから、むしろ活用できる場面は増えるかもしれない」
「そういうもんですか?」
「社会人になったら色々変わるのは確かなんだけど、社会人になったからこそ出来ることも多くなる。大事なのは、社会人になっても変わらないことだ」
「変わらないことって?」
「今まさに、『大学を卒業しても色々調べたり、学んだりしたい』って言ってるじゃないか。レポートや卒論を書いたり、討論したりしてきた過程で、今まで読んできた文章の背景に、いろんな調べ方、考察方法があることも見えてきているはずだ。その視野の広さ、方法の多様さを社会人になってから得たリソースと組み合わせて、もっともっと、好きなことを知ってゆけばいい
「社会人になってから得たリソース、ですか?」
「うん。ちょっとは自分のために使えるお金が増える人もいるだろうし、人脈も広がるはずだ。学生のときにできたことを、形を変えてやり続けていけばいい。学生のときにできなかったことでも、やれるチャンスがあるかもしれない。ほら、これから先にも道がつながっているんだよ」
「そういうもんですかねえ・・・」
「そうだよ、きっと。君たちは私とまた違う専門分野、ちょっと世代の違う人生を歩むんだろう。道のりはひとりひとり違うけど、ここで話してきた経験をもった友人が、その後どうなるのか、お互いに大変楽しみだよね」

これからは「異なる世代、異なる専門の友人」として

「だから、君たちに贈る言葉は、こういう言葉で締めくくりたい。私も君たちにとって、異なる世代、異なる専門の友人にすぎない。これからも、そういう関係で居続けて欲しい。そして、こういうことが気兼ねなく言える友人を、ぜひ幅広い観点で作ってほしいんだ」
「友人だなんて、そんな」
この研究室で教えていたことはね、たまたま10年先に生まれていた、ひとりの友人が語っていたことに過ぎないんだよ。しかも、ほぼ全ての場面で、君ら同士のやりとりにも学ばせてもらった。既に、私たちはそういう関係を築いている」
「・・・また、来てもいいですか」
「もちろんだよ。むしろ、君らのほうに私が遊びに行ってもいいし。それは、リアルの世界でも、ネット越しでもかまわない。場合によっては、本の世界からコンニチハ、っていうこともあるかもね」
「センセも本出しましたもんね・・・」
「うん。この四年間は、君らにとっては大学の4年間。私にとっては社会人の四年間、そして単著出版までの4年間だった。ともに歩んでくれてありがとう。これからもよろしくね」
「・・・はい!」

編集後記

この原稿は、まさに、私が千葉大学に着任してから4年間指導してきた学生の卒業式の日に書いています(いま、卒業祝賀会の合間に執筆しているところです)。
連載の経緯と目的は本編で書いた通り。この4年の間に、実に様々な学生から質問をいただきました。それにひとつひとつ答えることが、自分自身のあり方を見つめ直すことにもなりました。

姉妹編としてスタートした「タイムリープカフェ」の最終回では、本編最後の段落についてもう少し深掘りして書きました。
第12回後編:自分の未来のつくりかた~法学を学んだあとはどうするの?
異なる専門を持つチームを作ること、自分の持ち味を考えることに興味がある人は、ぜひ合わせてお読みください。

もうひとつ、お知らせがあります。すでに「タイムリープカフェ」のほうではお知らせしておりますが、この「ぱうぜセンセのコメントボックス」と「タイムリープカフェ」を、明日香さんと進吾くんが4年間、何を学んだのかという観点で再編集し、書籍化する予定です。出版社は、「タイムリープカフェ」でもお世話になった、法学関係の出版物を数多く出版している弘文堂です。横田明美名義での執筆となります。
対話編と説明文の組み合わせ、1年次から4年次の学年進行に合わせた統合、各種「ワーク」の挿入など、web連載版からさらに飛躍する予定です。
なお、これに伴うweb連載版の閉鎖予定は一切ありません。ご安心ください。ぜひ、新学期に向けて、皆様適宜ご紹介や拡散等お願いします。
書籍の詳細が決まり次第、「アシタノレシピ」でも告知させていただきます。

2013年12月から、長きにわたる連載をご覧いただきました皆さんに改めて御礼申し上げます。多数のご感想をいただいたことで、学生にもよいフィードバックができました。今後もいろいろ仕掛けていきますので、ご期待ください。
ぱうぜ

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