「何時間勉強すればいい?」が”間違っている”ワケとは

ぱうぜセンセのコメントボックス

【前回のおさらい】高校までの勉強と大学からの専門教育の違いについて語ったところ、こんな質問が進吾くんから飛び出した。

“一日何時間勉強すればいいですか?”

あー、これも質問のフレームワーク自体が”間違っている”質問だ。どうしたらそのことを伝えられるだろうか。

(前回のお話はこちら)「答えは一つじゃないんですか?」勉強と研究、そして専門教育とは

”間違い”に気づいてもらえるか?

まあ、「何でも質問していい」と言ってコメントボックスを作ったのは私だし、もうちょっと掘り下げることにしてみよう。

「進吾くんも、どうしてそういう疑問を持ったのか、詳しく教えてもらえるかな?」

「さっきも言いましたけど、俺、弁護士になりたいんです。ぱうぜセンセはたしかロースクール(法科大学院)を出ているはずなんで、ロースクールに受かるためにはどれくらい勉強したらいいのか、聞きたいっす」

ああ、やっぱりそういうことか。たしかに、私は博士課程の前にロースクールを修了しているし、この大学ではその経歴を持っているのは私だけだから、学生視点でのコメントがほしかったんだね。

「その目標設定がいいかどうかについては又今度考えるとして、今日は、君の質問の枠組み自体が大間違い、ってことを話そうか」

「え、大間違いなんすか?」

「なんでも質問していいって言っておいて、それはヒドいんじゃないですか?」

すっかり元気になった明日香さんが助け船を出してきた。ううむ、このままだとイジワルすぎるな、どう説明しようか。

時間の使い方

「そうだなあ、いくつか切り口はあると思うんだけど、先に質問させてもらうね」

「はい、こっちこそ、なんでもいいですよ」

「お二人とも、通学時間はどれくらい?バイトとか、サークルにかけている時間は?家事はどれくらいやってる?友達や恋人と過ごす時間は?」

「うわっ、とんでもなくプライベートな質問ですね」

ごめんなさい。でも必要なことなのです。

「まあ、最後のはおいとくにしても、電車通学に2時間/日、バイトは3日おきに6時間、サークルはそのときどきっすね」

「私は近所だから、自転車通学で15分くらいです。バイトは週に1回まる1日、友達ともよく遊びますね。サークルは、大会とかあるときはもう毎日3時間は当たり前です」

あれ、結構素直に答えてくれた。

「それじゃ、睡眠時間は?」

「だいたい6時間かな」

「あー、夏は5時間くらいですけど、冬はお布団から出られません・・・8時間くらい」

「なんでこんなこと聞くんですか?」

「ん、わからないかな。それじゃあ、質問をこう変えてみよう。」

“そもそも、勉強出来る時間は何時間なの?”

「あっ・・・」

やっと気づいてくれたみたいだ。これが、さっきの質問が間違っている理由その1。

「そう、人によって使える時間が違うんだよ。同じ大学の同じ教室にいるお二人ですら、ね」

おなじ24時間が配分されていても、どう使えるかが違うんですね」

その勉強、何のために?

「もうひとつ、別の側面からみてみよう。明日香さん、あなたが私の授業を受講している動機、きかせてくれる?」

「それを聞かれるとちょっと恥ずかしいんですけど・・・実は、いつかお店を持つのが夢なんです」

「えっ?でも、それだけじゃ全然分からないや」

「ぱうぜセンセが初回授業で、『喫茶店に入り、安心してコーヒーが飲めるのも水道法や食品衛生法のおかげなんだよ!』って、おいしそうな顔してにやけてました」

あっ・・・行政法という科目が、身近なお店への規制にも通じているんだよってことをわかってもらいたくて、そんなことを申しましたっけ。

「まだ、どんなお店を開くかは決めてないんですけど、自分でオーナーになったら、色々法律のことも調べないと、ってなると思うんです。専門家に任せることもあると思うんですが、その前に自分でも勉強するのに役に立つかなあ、と思って受講しています」

「なるほど、将来の自分のためにやっておくんだね。俺は試験科目としてしか見てなかったから、新鮮だな」

「そうすると、もちろん単位は欲しいわけだけど、近い将来の試験のために勉強するのとは、力の入れ方は違ってくるかも知れないね」

「はい、どちらかというと、税金の争い方とかが面白いです。お店の人達の視点で、自分のお店だったらどうしようかなと考えてノートを作っています」

「それじゃあ、ここから先は進吾くんに質問。『試験科目としてしかみてなかった』って言うけど、試験問題見たことある?」

「いや、なんか、過去問使い切っちゃうともったいないような気がして」

「それじゃあ、定期試験とかの過去問も、まだ見てない?」

「そうっすね・・・なんでそんなことを?」

君の目標が試験の突破にあるのなら、『どんな勉強をしたら試験の現場で答案が書けるのか』ってことも意識しないと、勉強の方針が立てられないじゃないか。それもしないで、よく『試験勉強のために』っていえたもんだね」

「むぐぐ・・・確かに、自分が出来るのか出来ないのかすらよくわかんないすね、今のままだと」

「イジワルを言うつもりはないし、『試験勉強のため』だけに専門教育の勉強をするのはお勧めしないけど、これだけはいえるんだ」

どういうアウトプットができるようになりたくてインプットをするのか、それをときどき思い出して欲しい」

なぜ「時間管理」「タスク管理」が必要なのか

「ときどき、でいいんですか?」

「うん、全部が全部、試験のために大学に来るなんてつまらないよ。また、明日香さんみたいに、人生を生きるための知恵として受講するというのもアリでしょ」

「大事なのは、バランスですか」

「そう。あえて最初に通学時間やバイト、友人や恋人との時間から聞いたのは、それも大事なことだから」

「そういえばそろそろクリスマスですしね♫」

ん、なんか明日香さんは楽しそうだけど、進吾くんは・・・うーん、触れないようにしよう。

「・・・人生の時間割を作るのは、自分自身なんですね」

「だから、『一日何時間勉強すれば試験に受かる』っていうような答えを期待した質問は、大間違いなんだと」

自分が使える時間は人によって違うし、何のために勉強するかも、今どれくらい身についているのかも人によって違うからなんですね」

「まあ、大間違い、っていうのは言い過ぎだったかもしれないけど、発想の枠組み自体を変えたほうがよさそうだよ」

しかし、そうはいってみたものの、どうしたらいいのか・・・ふたりとも頭を抱えてしまった。助け船を出さなくては。

「アシタノレシピっていうサイトで、『タスク管理』や『時間管理』について悩む人向けの記事がたくさん載っているから、お二人もこの年末年始にいろいろ考えてみたらどうかな」

「タスク管理」という情報整理術がもたらす3つの効果
めんどくさいとお嘆きのあなたに

時間管理は訓練すれば誰でもできる!訓練の3つのポイント!
あなたにもできるんです

「最初の一歩のお勧めはありませんか?」

「そうだなあ、まずは今どう過ごしているのか、24時間の記録をとってみるといいよ」

毎日充実させるために24時間サイクルを磨いていこう〜初級編
最初は「手帳に手書き」からでもOKです

(それぞれ関連記事もありますので、よかったら併せてご覧ください)

突然、取材班がやってきた

コンコンコン!・・・突然、研究室のドアが高らかに鳴り響いた。

「えぇえ、押し売りならお断りでs」

「突然すいません!新聞部です!」

あれ、新聞部ってあったっけ・・・。

「急な来訪で申し訳ありません。なんだか、新任の先生が妙な企画をしている面白いボックスを設置したと聞いて、取材にきました!」

メディア志望の学科の人なのかなあ、ずいぶん積極的だ。

「突然なのですが、本紙も質問をさせてください。よろしいですか?」

まあ、断る理由もないし、明日香さんや進吾くんも興味津々で聞いている。ゆっくりと頷いた。

「インターネットで検索させていただいたところ、ぱうぜセンセって実に様々なSNSやブログを使いこなしていらっしゃいますね。そこで・・・」

 “SNSとの接し方は?”

「学生に向けてのコメント、ということでよろしくお願いしますっ!」

しまった、着任早々ばれてしまったか。さて、今度は紅茶を入れて、その間に考えよう・・・。

◇ぱうぜセンセのメモ◇「人生の時間割」を作ろう

人に作ってもらう「時間割」が徐々に無くなっていくのだなあ、大学生活って。ロースクール(法科大学院)はギッチギチだったけど、研究者養成の大学院に行くともっと「時間割」が無くなるんだよね。ロースクールから博士課程に行ったときに戸惑ったもんなあ。進吾くんの疑問も、そう考えればおかしくない・・・かな?

 編集後記

ぱうぜ(@kfpause)です。今回からはかなり創作がはいっていますが、疑問の発端はやっぱり学生からの質問でした。若いうちはお金が無いけど時間があるので、時間への感覚が違うんですよね。なお、法学教育におけるインプット・アウトプット問題については、本名のほうのブログで続きを書く予定です。

ぱうぜセンセのコメントボックスでは「バーチャルコメントボックス」を設けております。Twitterで #ashitano をつけて投稿していただければ適宜拾いますので、どしどしお寄せください。いただいた全ての質問にお答えできるか分かりませんが、とりあえず試してみることにします。似たような仕組みとして「ビストロ・アシタノ」もありますが、ビストロはアシタノメンバーみんなで答える形式になります。どうぞ両方ご愛顧ください。

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