心の中に「専門分野」を持ってみよう

ぱうぜセンセのコメントボックス
定期試験も終わったし、ようやく夏休みだなあ。さて、私も帰省しよう。
…あれ、明日香さんからかなり長いメールが届いている。どれどれ・・・

「進路に迷っています。センセ、どうしてその仕事を選んだのか、教えてくれませんか?」

うーん、参考になるかどうかわからないけど、何とか答えてみようか。


(前回のお話はこちら)ディベートからレポートに生かしてみよう

やりたいことはあるけれど

ええと、明日香さんってたしか、自分のお店が持ちたいって言ってなかったっけ・・・?

「夏休みにこんなメールですみません。前に『お店を持ちたい』って漠然とした夢を語っていましたが、どうもすぐに起業することは難しそうです。考え込んでいるうちに、どうして自分がお店を持ちたいのか、わからなくなってきてしまいました。もう大学3年の夏、そろそろどうするか真剣に考えなきゃいけないんですが、どうしていいかわかりません。自分で決めなきゃってことはわかっているんですが、センセがどうしたのか、聞いてみても良いですか?」

ああ、やっぱり。ちょっと前までは結構なことだと思っていたけど、実際に行動に移そうとすると難しいところがあるよね。

研究者ってキャリアはかなり特殊だから、参考になるかどうかはわからないけど、答えてみようか。

やりたい「対象」とやりたい「方法」を考える

「明日香さん、真剣なメールありがとうございます。仰るとおり、最後は自分で決めなきゃいけないことだし、あたしが大学生だった10年前と今はかなり状況が違うから、昔話だとおもって聞いてください。」

今の学生の状況は、ほんと厳しいからなあ・・・。

「わたしは大学3年生のとき、行政法という分野に興味をもちました。しかし、どうしたら行政法を使って仕事にできるのか、よくわかりませんでした。法律の専門家として仕事がしたいのか、行政のなかで働く公務員として働くのか。前者にしても、弁護士になるべきなのか、研究者になるべきなのか。それはそれは悩みました」

分野外の人にはわかりにくいかもしれないけど、行政法っていうのは行政と法に関するほとんど全てを相手にするような法分野だから、「行政法が好きです」だけでは仕事にならないんだよね。

「結局、行政の中で働くよりも、自分自身が行政法のプロとして働きたいな、と思って、弁護士になるか、研究者になることに決めました。そこまで行くと、司法試験に受かるか、ロースクールに進学することになるので、学部4年はそれに費やしましたね」

もっとも、これも今だと予備試験っていうのがあるから、また状況が違う。ほんと、めまぐるしい。

「それで、どうして弁護士ではなく研究者になったのかというと、『弁護士だと行政法のことだけじゃ食べていけないのでは?』と考えたこと、そしてもうひとつ、『争っている人双方の立場を踏まえて考えたい』と思ったからです」

これが、対象だけじゃなくて、方法も踏まえた上でした選択でしたね・・・

社会に出ないとわからないことも

「もっとも、今だと『弁護士だと行政法専門じゃ生きていけない』とか、『弁護士になっては行政法が生きない』というのもちょっとミスリーディングだということがわかりました。学生の立場だと、どういうふうに仕事が回っているのか、どうしてもよくわからないところがあったんですね」

いまは自治体や官庁での弁護士採用もあるし、法律に特化したような部局もあるし・・・学生のときには、全く分からなかったことです。

「また、『行政法ができるだけ』ではお仕事としては完結しなくて、色々なことをしなければならないというのもわかってきました」

自分の持ち味はどこにあるのか

「それでも、『争っている双方の話を聞きつつ、それらとは離れた立場で考えたい』という方法を実現できる研究者という立場、そして、皆さんのような新鮮な驚きを与えてくれる学生に教える立場である大学教員という仕事に、とてもやりがいを感じています」

社会に出ないとわからないことも色々あるけど、自分が大事にしていたことを満たせたのは満足です。

「しかも、そのような特徴は、自分に合っていると感じています。これは、試してみないとわからなかったことで、大学を出た後の10年間のうちの試行錯誤で『ああ、これが得意かも』『もっとやってみたい』というのを積み上げていった結果です」

自分の専門分野をもってみる

「つまり、『この職業では~~が出来ない』とか、『この方法では~~~~~に届かない』とかいう社会に出るまでに持っていたイメージは、半分は当たっているけど半分は外れているという印象です。だから、どのような進路を選ぶとしても、どのような結果になったとしても、自分の専門分野を心の中にもってみることをお勧めします」

それはひょっとしたら、一つの職業の枠組みには当てはまらないことなのかも知れないし。

「今でも、自分は『もし弁護士/公務員になっていたらどう考えただろうか』とかを想像したりしながら仕事をしています。隣にいるひとは、自分が通る可能性があるけれども通らなかった人生の道筋を通った人なのかも知れない。そのような人に対して、自分が提供できる専門性とか、逆に素人としての視点とかは何だろうか、と考えてみると、いろいろなコラボレーションのもとにもなります。」

「一般的な会社員や、総合的な仕事の公務員になったとしても、『この分野は負けないくらい必死に勉強する』とか、『この方法のプロになってみる』とかいう面がいくつかあると、個性が出てきます」

その部署のなかでの「プロ」になることは、できそうですよね。

「もちろん、『それ以外のところはやりたくない』っていうのではなくて、『この分野を頑張って吸収してみよう』とか、『この話題のときは、なにか新しいものを付け加えることにする』とか考えてみるんです」

無茶ぶりもあるかもしれないけど、ココと決めたところにはプライドをもってやってみる、ってこと。

「自分の『専門分野』を育てていけば、もしその職業ではどうしてもできないことがあっても、外部に協力者を得たり、転職のための道筋がみえたりするかもしれません」

試してみることはできるから

「どんな場所にいたとしても、試してみることは出来ると思います。すべてをかけて飛びつく前に、いろいろな世界をみてください。インターンとか就職活動というのは、おそらくはそのための期間なのだと思います。そこでみえるものが全て、ではありません。それを頭に入れて、試してきてください。相手からも試されていることもお忘れ無く。それでは良い夏休みを」

あまり質問に答えたことになっていないけど、こういうことじゃないかなあ・・・ああ難しい。

◇ぱうぜセンセのメモ◇

そういえばいわゆる「就職活動」って一度もしたことがないんだよね・・・。この悩みはむしろ、「アシタノレシピ」を読んでいる人達のほうが答えられるんじゃないかしら。他の人達の意見とか、お話も聞いてみたいな。

編集後記

この時期は進路相談ほんと多いです。幾人かの学生に答えたことをまぜこぜにして構成しました。皆さんのご感想をお待ちしています。また、ぜひ「バーチャルコメントボックス」に質問をお寄せください。Twitterで @kfpause宛てにツイートしていただいても結構ですし、 #ashitano をつけて投稿していただければ適宜拾いますので、どしどしお寄せください。

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