目からウロコの子育てレシピ1 「傾聴による,不安をかかえている子どもの心のケア」

はじめに

知的生活ネットワークのLyustyle(@lyustyle) です。

いよいよ今週から子育てレシピを始めます。連載第1回目に何を書こうかと考えていくつか記事を書きました。かなりの分量になってしまい,何回かに分けないといけないなと思う記事もあれば,ニーズがあるのだろうかと投稿を躊躇する記事もあり,どれから始めるか選ぶのにに難航していました。

ちょうどその状況の中で熊本地震が起こりました。熊本では大きな被害が出ています。わたしの知人も現地で被災しましたが、Facebookに送られてくる写真見ていると、その大変さがズシンとと伝わってきます。

長引く避難所の生活で子どもの心にも影響が出てきているはずです。余震による、怖かった本震へのフラッシュバック。慣れない避難所で不安があってもわがままを言いたくても言えずにいること。

被災者ではなくても、不安を抱える子どもはいます。連日見たり聞いたりしてしまう被災地の悲惨な状況から、気持ちが塞ぐ子どもがいます。自分の立場に立って考えるあまりに、無力感や先行きへの不安を感じ、共感疲労してしまう子どももいます。

子どもは子どもなりに様々な気遣いをしています。泣いたり怖がったりなど、表面に出てくる子どもにはケアをしやすいのですが、一見けなげに振舞っていたり、元気にはしゃいふでいたりする子どもの中には、実は大きなものを心の中に抱えていたということもあります。

そこで、子育てレシピの第1回として、不安を抱えているこどもへの心のケアについてお話ししたいと思います。

なお,被災されている方の状況は私たちが考えるよりもはるかに過酷であり、その外にいるものがどうこう言えるものではありません。したがって、一般的な状況の中でのこととしてしか語ることはできません。その点ご了承ください。

また,ここでいう子どもとは幼児から小学校高学年までを考えていただいていいと思います。

心のケアが必要な子どもに大人がしてあげられること

「励まし」と「寄り添い」

怖いことに遭遇したり、不安なことがあったりして元気をなくしている子どもがいます。私たち大人はそういう時、よく励まそうとしします。

「大丈夫!お父さんがついている!」とか「勇気を出して!必ずできるよ!」とか。励ますことはとても大切なことです。進もうか、どうしようか迷っているというような子どもには、励まして肩を押してあげることで迷いがふっきれたり,思い切って前に進んだりすることができるようになると思います。

しかし、不安に苛まれている子どもにいたづらに「大丈夫よ,がんばろうね!」と言っても不安が消えるわけはありません。「がんばろう,不安があっても言わない強い子になろう」とけなげに思うだけです。そしてさらに心の中に不安がつらさとなって積み重なっていきます。

安心できるまでは不安は解消しないのです。だから、いかに安心させてあげるかを考える必要があります。消せる不安は消してあげることで解消します。「だいじょうぶよ」という励ましも,その根拠があれば示してあげることで「なーんだ」と解消し,効果があるでしょう。しかし,簡単には消してあげられない不安,見通しが持てなかったり,人智ではなにもできなかったり,そのようなことに対する不安には,励ましよりも「寄り添い」が効果的です。

そのための重要な手だてが、「聴いてあげる」、ということなのです。それも「共感的」に。

人は話を聴いてもらえると安心し、自分を開示します。その開示によって、心がすっと軽くなるのです。

共感的に聴くことの大切さ

以前こんな記事を書きました。

ひょんなとこから見知らぬ人のカウンセリングをすることになっていろいろと考えたこと | 知的生活ネットワーク
ファミレスの中で出会った年老いた母と娘。娘はその母親につらい言葉を吐き続け,しまいには手が出てしまいました。そこで私は見ていられなくなり席を立って注意をしたのですが,最初は娘から「関係ないでしょ!」と突っぱねられました。娘はそのことで火が付いたのかさらにエスカレートしそうだったので,私はもう帰ろうと思いました。その時に横を通りながら,「あなたもつらいことがあったんですね」と言った一言で,その方が一気に自分を開示し始めたのです。そしていつのまにか「ごめんなさい」という言葉が出て,最後には「ありがとう」と笑顔になられました。そういうお話です。

大人でもこうです。話を聴いてもらい,自分が開示できれば心がすっとします。

子どもはなおさらです。不安を抱えている子どもには、大丈夫、大丈夫という励ましよりも、共感的にお話を聴いてあげるほうが解消されやすいのです。

寄り添って不安を聴いてあげるだけで安心し、癒される

「聴いてあげる」というのは,炊事したりテレビを見たりしながら「さ,なんでも話してごらん。きいてやろう」というようなことではありません。「傾聴」のことです。その子に向き合い,もしくは隣同士に座ってあげて,「聴いて」あげるのです。

子どもが横にくっついてきたり,「ねえ,,おかあさん・・」ともじもじしていたりなど,「あ,何か話したがっているな」と思うときがあるでしょう。そのときに,今していることをやめ,いっしょに座ってあげることから始めます。

「あのね・・」「うん・・」「○○が○○だった・・」「そう」「それでね・・○○」「・・そうなのね」「・・・こわかった・・」「こわかったのね」「うん・・・」「そうね、怖かったのね」「うん・・・」「こわかったねぇ」(背中をさすってあげる)

ここには説諭もありません。「こうしたらいいよ」という解決策の提示,アドバイスもありません。ただ聴いているだけです。

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子どもは安心して走っていくでしょう。こわかった原因が消せることならこの時点で消してあげられます。「あ,それはね。実は,こうなのよ。だから安心していいよ」というように。

よく「こういう風にしているとくせになるんじゃないか」と心配されることがありますが,そうではありません。結果的に「くせになる」ではなく必要なことを親を信頼して話してくれるように育っていくのです。

寄り添ってじっとしていただけのことも・・・

私の経験談です。4年生の始業式の日。朝は一度3年生の時の教室に集まります。そこから新しい学級分けにいくのですが,そのとき,ある女の子が走ってきました。4年生とはいってもまだまだ2週間前までは3年生だった小さな子。これから先が不安でたまらないのです。

「先生,だっこして!」そういってしがみついてきました。ふつう学校ではだっこをすることはあまりありません。でもその時はその子の「切実さ」を感じました。それで「よしよし」といいながら抱えてあげました。

するとその子は私にしがみつき,足を私の腰にぎゅっとまわして,顔を私の胸におしつけました。そしてしばらくぎゅっとしがみついたままじーっとしていましたので,私もじっと抱いていてあげました。

時間にしてたった10秒ほどのことだったと思います。その子はぱっと手を放して飛び降り,満面の笑顔を浮かべて私に手を振りながら「せんせ!いってきまーす」といってかけ去っていきました。不安が取り除かれた顔でした。

その子は,きっと私に不安な気持ちを全部開示できたのだと思います。

手がはなせない時は・・・

そうはいっても手がはなせない時もあります。

てんぷらを揚げているときに横にこられてもこれはいくら何でも揚げ物を中止して・・・というわけにもいきません。そんなときは無理せずに「何かお話ししたいんだね。このてんぷらを揚げてからでいい?」と時間をつくる約束をします。

掃除や庭仕事ならば,「いっしょにしながらお話ししようか」と言うことで子どもは心を開示できることがあります。

「忙しいからあっち行ってて!」では,子どもは心の開示をできないまま,ため込んでいくことになるでしょう。

そうして,本当に大切なことを話してくれないようになるかもしれません。

私たちは,人智を超えたものに関しては無力ではありますが,そのことで不安を持っている子どもに対しては無力ではありません。アドバイスも解決策もいらない,ただ「聴いてあげる」ということで,大人は大きな力になることができると思っています。

おわりに

記事ではふれられなかったのですが,共感疲労を起こしている子どもについて少しお話ししておきたいと思います。「被災地ではあんなに大変なのに,僕だけ食べていいのだろうか」「私だけ遊んでいていいのかしら」と思うあまりに日頃の生活がしにくくなったり,夜眠れなくなったりしてうつ状態になる子どもが時折います。実は私は子どものころそういう子どもでした。とても感じやすかったのです。

そんなときは「そんなこと心配してどうするんだ」などといたづらに否定せず、共感していることを感謝した上で、(ほめるのではない),今できることを具体的に話してあげ、方向性を示してあげるとよいと思います。ご飯を食べることは悪いことではない、遊ぶことは悪いことではない。むしろ平常の生活を平常に回すことが大事だということ。そして、事故や火事を起こしたりして、警察や消防,役所の人たちに手をかけるようなことをしないこと。そういうことを大人から言ってもらうと,「そうか,いいんだ。」と安心することと思います。

さて,「傾聴」ということは,親子関係,師弟関係だけでなく,上司と部下の関係にもいえる大切なことだと思います。私が仕事をする際によって立つ大事な土台です。子どもや保護者との関係においても,同僚との関係においても,上司や部下との関係においても,そして大切な夫婦の関係においても,いつも「少し話してたくさん聴く」ということを実践してきたつもりです。

今の仕事は保護者からのクレームを受けることも多いのですが,まず,「あ,聴いてくれた」と思ってもらうことを心がけてきました。それでほとんどのことは解決してきました。クレームをつけてきた人がいつの間にか協力者になってくれたこともあります。それほど「聴く」ことで心の開示を促すということは重要なことだと考えています。

しかし,ここにあげたことは,あくまでも私の教師としての経験と勉強の中から正しいと感じていることを書いたものです。お考えと合わないこともあると思いますが,その点どうぞご了承ください。

それでは第2回でお会いしましょう。

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