「卒論」ってどんなもの?まずは広く探索してみよう~ぱうゼミ卒論編その1

2016年03月05日 1 Comment by

ぱうぜセンセのコメントボックス

ぱうぜセンセのゼミ、通称「ぱうゼミ」。コメントボックスをきっかけにぱうぜ研究室の常連になった明日香さん、進吾くんは、ぱうゼミに所属して卒業論文を書くことに決めた。
「ぱうぜセンセのコメントボックス」最終章、「ぱうゼミ卒論編」は、二人が卒論を書き始めるところからはじまります。

卒業論文指導はじまりの一歩

「それで、二人が卒論を書くゼミに応募してきたわけなんだけども、困ったね・・・」
時は2015年4月。進吾くんと明日香さんが、ゼミ履修希望届けと共に研究室にやってきた。
「何を困っているんですか、先生」
「いや、進吾くんなら分かると思うんだけどさ、法学部って卒論がないところもあるのよ」
「そうっすね、うちの大学も法学科には卒論がないっすね」
「だから、明日香さんの質問に答えるとき、いつものやり方が使えないんだよ・・・」
でも、これがわからないと、指導も出来やしない。

『卒業論文ってどういうものですか?』

いつものやり方、それは、自分の体験を元にして教えるということ。今回はそれが使えない。ぱうぜセンセ、最大のピンチだ。

ぱうゼミ募集要項

「そんな無責任なこと言わないでくださいよー。あたしたち、センセのゼミ要項をみて、がんばろって気合い入れてきたんですから」
ああ、もちろん、こちらも気合いを入れて書いたよ。こんな感じで。

ぱうゼミは「対話で研究する行政法」をテーマとし、最終的には自分で主体的に約3万字の卒論を書くことを目標とします。「行政法で3万字?」と尻込みするかもしれないですが、議論をするための基礎トレーニングから徐々にステップアップし、着実にプロジェクトを進める力を養いつつ進めていきます。

「でも、これ、『自分で主体的に約三万字』としか、書いていないよね」
「どうやって、主体的に書けばいいんです?」
そうだなあ、まずは目標を伝えないとね。

卒論ってなんだろう

「以前、研究やレポートの目的について語ったの、覚えているかな?」
「答えは一つじゃないんですか?」勉強と研究、そして専門教育とは
人類の英知に挑むためには、”既存の知識を疑ってかかる“力も必要になる …
人類の英知に挑むためには、”既存の知識を疑ってかかる“力も必要になるんです
その「問い」は何のため?レポート課題の目的とは
問いと、答えと、論拠がそろった文章 …
論文とは、「問いと、答えと、論拠がそろった文章」のこと

「覚えてますよ。研究って、今までわかってなかったことを少しでも押し広げること、だし」
「レポートは、論文を書くための練習なんだってこともわかります」
「そうそう。で、卒論って、正式名称は・・・」
「あ。卒業『論文』なんですね」
「それじゃ、『問いと、答えと、論拠がそろった文章』であることは必要なんですね」
そこまではOKだね。

卒論の目標は?

「でも、それだけじゃわからないことがあります。どこまで書けばいいですか?」
「いちおう、3万字っていう分量の目安はありますけど・・・とんでもなく長いっす」
うん、程度についてのイメージがつかないか・・・。
「レポートはどれくらいの長さだった?」
「せいぜい5000字とかですね」
「どれだけのことが書けた、と思う?」
「長さに制限があるから、『きちんと調べた』ってところまでですね」
「そう、レポートは、論文と言うには要素が欠けていることが多いんだ」
以前も引用した、この分類を示しておこう。

 論文の課題はつぎのように四種類に分類できる。
・報告型の課題
(イ)読んで報告するタイプ 
(例)ピーター・シンガー著『実践の倫理』昭和堂(1991年)の第三章を読み、要約しなさい。
(ロ)調べて報告するタイプ 
(例)オランダのいわゆる「安楽死」法について、調べて報告しなさい。
・論証型の課題
(ハ)問題が与えられたうえで論じるタイプ
(例)動物に権利を認めるべきかについてあなたの考えを自由に展開しなさい。
(ニ)問題を自分で立てて論じるタイプ
(例)その他、生命倫理にかかわるテーマについて自由に論じなさい。
(戸田山和久『新版 論文の教室 レポートから卒論まで』NHKブックス、2012年、19頁及び55頁。挿入や強調等の編集を行った。)

「卒論は、この最後のレベル4、『問題を立てて自分で論じる』タイプだよ」
それが「論文」の最低ラインのひとつなんだ。
「でも、『論じる』っていうのがよくわかりません」

「論じ方」って難しい

「それが一番の悩みなんだよ。ここに、先生の博士論文を元にした論文があるんだけど・・・」
「えぇえ、そんな難しいの読めないですよ」
「じゃあざっくり言うと・・・序章では、法律が改正されたけど、まだ分からないことがたくさんあるよ、と指摘。第1章は、その具体的な現れを、実際の事件をもとに説明したんだ」
「ふむふむ」
「これについて何らかの回答を得るために、第2章ではドイツではどうなってるの?って調べて、第3章は、日本の改正前後でどういう議論があるのかを調べた」
「それで?」
「そこから、第4章では、『こう捉え直したらうまくいくのではないか』という仮説を立てて、ドイツ法からみて気がついた点とかを踏まえつつ論じたんだ」
「あー、ドイツ語の本がこの研究室にたくさんあるのって、そういうことなんですか」
「そう。法学の論文だと、『他の国の制度と日本の制度を比較して、問題点や解決策のヒントをあぶり出す』という、比較法という手法がよく使われる。しかし、それを学生にやってもらうっていうのは難しいしねえ」
「それじゃあ、論じ方を教わることができないじゃないですか!」
あああ、明日香さんがおののいてしまった。そうなんだよ、「論じ方」そのものを、見せることができないんだ。

「方法」も「仮説」も、はじめから見つかるとは限らない

「それじゃあ、どう進めていけばいいか、わからないですね・・・」
「問うべき『課題』も、『問い』も、答えたる『仮説』も、そして『論じ方』もわからないんじゃ、どこから手を付けていいかわからないですよ」
「なんか、たくさんの記号がある連立方程式を解いているみたいで、決まりませんね・・・」
うん、ある分野のある手法、っていう風に決め打ちして身につけさせるっていう卒論指導方法もアリだとは思うんだけど、自分自身、卒論を書いたことがないから、そうもいかないんだよ。
「実は、どんな資料が見つかるか、どんな議論があるのかについて調べきれるかどうかという問題もある。だって、卒論提出まで9ヶ月しかないでしょ?」
そう、ぱうゼミの卒論提出期限は2016年1月8日。これは学科全体で決まっているから、先生であっても変えられないんだ。
「せっかく『問い』を立てても、『解いた』といえるかどうかは、方法論だけじゃなくて対象がどうなのかによっても変わってきますね」
「しかも、俺たちの就活、これからだよ・・・」

はじめの一歩は?

「それじゃ、進路が決まる夏までの間の課題は、こうしよう」

自分の関心のある分野について、「問い」とそれを「答え」るための「方法」が見つかるように、ありったけ調べてみよう。調べるのは、単に「対象」だけじゃなくて、「論じ方」としても参考になるものも含めてさがしてみよう

「ありったけ?」
「論じ方を調べる?」

卒論執筆で「大学内で一番詳しい人」になろう

「なんで『ありったけ』調べてみるんですか?」
「卒論はやってみるまで感覚がつかめないと思うから、一応の目標を示しておくよ。卒論を書き終わったときには、『そのテーマについては大学内で一番詳しい』と言えるくらいに知識や先行研究が整理できていて、その上でさらに何かを付け加えるようなことを目指して欲しい」
「ふぇええ、大学内ってことは」
「そう、目の前に居る『指導教員』も大学内、だからね」
「ぱうぜ先生よりも詳しくならなきゃいけないんですか」
このことの意味は、実際に書き始めてからわかるだろうから、ここまでにしておこう。

「論じ方」の参考文献を探そう

「論じ方についても探す、ってどういうことですか?」
「卒論の書き方、みたいな本を読めってことですか?」
「うーんと、それだけじゃなくて、実際の論文として、参考になるものも探してほしい。もし、『交通問題についてやりたい』と考えていたら、『ロンドンの渋滞とその解消策』についての論文が見つかったとしよう。でも、自分が知りたいのはこの町の渋滞について、かもしれない。そうならば、この町の渋滞を分析したり、解決策を探るための手法の参考になることが、『ロンドンの渋滞とその解消策』の論文の手法から見いだせるかもしれないよね?そういうことだよ」
「それってパクリにならないんですか?」
「ちゃんと典拠を示した上であれば、分析手法をそのまま持ってきたからといって、同じ文章になるはずはないでしょ。中身だって、別の町のことがらだ。むしろ、きちんとした『研究のお作法』にのっとった方法をとるべきだよね。だから、すでに成立している論文の分析手法をまねすることは、その手法が通用する条件が整っているかぎり、むしろ積極的にすべきことだよ」
「・・・よくわからないけど、まずは色々読んでみないことには始まらないですね」
ネットでの検索のコツは?「情報地図」作りからはじめよう
調べ方にもコツがあります

「新社会人におすすめの趣味は?」~『書店めぐり』のススメ
書店を端から端までめぐってみたり、別の大学図書館や博物館に出かけてみたり

「先生よりも詳しくならなきゃいけないんだ、やれる限りやってみるしかないね」

ぱうぜセンセのメモ

こちらも手探りでやってるから申し訳ないなあ・・・。あ、卒論は大学内で一番、というのには続きがあって、修論は日本で一番、博論は世界で一番考え抜いた人、ってことだったかな。出典がわからないんだけども・・・ただ、調べただけでは論文にならないから、どうやって「論じる」かがポイントになりそうだね。

編集後記

長く連載を休んでいましたが、リアルのぱうゼミ第一期生の卒業式が近づいてきましたので、ぱうコメも卒論編を執筆して、コーナーとしては卒業したいと考えております。卒業式(3月23日)までに連載を終えたいので、やや不定期更新になること、ご了解ください。実際の卒論執筆過程になぞらえるように執筆していきます!

なお、姉妹ブログである「タイムリープカフェ」でも、卒論について書きました。
第11回後編:社会を変えるには?法学を基軸に他分野にも橋を架けてみよう – タイムリープカフェ
立法論の難しさについて書きました

法学のゼミで卒論がないことがある理由、少しでもご理解いただければ嬉しいです。ぱうぜセンセも「総合政策学科」の先生として、卒論指導をしているという設定になっています。
 

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About the author

2013年春から大学教員になった駆け出しの研究者。専門は行政法。 個人ブログとして対話をテーマとした「カフェパウゼをあなたと」を運営中。 http://kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp/
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