チャンスとタイミングを読む力 ~忙しいビジネスパーソンのための「軍師の心得(その6)」~

戦国時代の黒田勘兵衛にまつわる出来事から現代のビジネスパーソンに役立つスキルを紹介する「軍師の心得シリーズ」。第6回ではアシタノの読者の皆さんがこれから多くのチャンスに巡り合うことを願って、「チャンスとタイミングを読む力」について取り上げます。

さて、軍師という存在はチャンスを読む力が優れているために多くの勝利を得ることに貢献しました。今回は戦国時代の軍師である「黒田勘兵衛(くろだ かんべえ)」が、初めて采配を振るった合戦を例に紹介しましょう。

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黒田勘兵衛(くろだかんべえ)が20代の頃に仕えていた小寺(こでら)家は、兵庫県の播州地方に領土を持っていました。そしてその小寺家の東側には別所家の「別所安治(べっしょ やすはる)」が、小寺家の西側には赤松家の「赤松政秀(あかまつ まさひで)」が存在し小寺家と対立していました。戦国時代は互いに領土を広げ勢力を拡大することが生き残る方法ですので、別所家と赤松家はそれぞれ小寺家の領土に攻め入り占領したいと考えていました。

しかし、小寺家、別所家、赤松家は、互いに勢力が拮抗していた為、お互いに本気で合戦をすることはありませんでした。なぜなら、もし本気で戦をしていずれかが勝ったとしても勝者は大きな被害を被ります。するとその隙に、近隣の領土を支配する他の領主である三好家や毛利家などから攻め込まれてしまうからです。

そのような状況において、赤松家の赤松政秀(あかまつ まさひで)は、巧妙に小寺家を陥れる作戦を立てました。それは別所家と手を組み、小寺家を東側と西側の両方から攻めるという作戦です。そして小寺家の領土を征服した後に小寺家の領土を別所家と半分ずつ分け合うという約束で、別所家の協力を取り付けました。しかし先ほど説明したとおり、別所家としては自軍の損害を最小限に抑えたいと考え、積極的に小寺家を攻めようという意図はありません。そして赤松家も同様に考えていました。そのため赤松家も別所家も、互いに相手が先に小寺家に攻め入ることを期待していたのです。

ここで軍師「黒田勘兵衛(くろだかんべえ)」が活躍します。小寺家に仕えていた黒田勘兵衛は赤松家と別所家の最新の情勢について調べ、彼らが小寺家を正面から攻めようとしていないことを見抜きました。

赤松家は別所家との間で、先に別所家が小寺家の領内に攻め入るという約束を交わしていたため、赤松家は小寺家の領土の境界線に近いところで軍隊を待機させていました。赤松家の想定は次の通りです。先ず、別所家が先に攻め入り小寺家と別所家との間で争いを始めます。そして両者が疲弊してきたところで赤松家の軍隊が後ろから小寺家を突く作戦でした。

この作戦を見抜いた小寺家の黒田勘兵衛は、待機していた赤松家の軍勢に対して先に戦いをしかけます。

すると赤松家の軍はまさか相手(小寺家)から攻めてくるとは思わず、黒田勘兵衛の軍勢に驚くと共に、戦う準備ができていなかったためにすぐに後ろに敗走しました。そして、赤松家の軍隊の敗走を聞いた別所家は単独で小寺家に攻め入る訳にもいかず、別所家も軍隊を退かざるをえなくなりました。この結果、小寺家は東側と西側からの挟み撃ちに合うという窮地を脱することができました。

1.相手の置かれている環境を読む

上記で取り上げた争いについて少し補足しましょう。最初に戦いを企てたのは赤松家の「赤松政秀(あかまつ まさひで)」でした。その赤松政秀もなかなかの策士です。なぜなら、小寺家に対して、赤松家と別所家とが大軍を率いて同時に小寺家に攻め入ろうとしているという噓の情報を、小寺家に流しました。そのため小寺家は最初はじっと守備に回る方法を検討していました。もし小寺家がそのままじっとしていたら、それは赤松家の思うつぼでした。

しかし、小寺家に仕えていた黒田勘兵衛は赤松家と別所家の両方に密偵を派遣していたため、赤松家の策略を見抜きました。そして先に赤松家の軍勢を攻めるという対抗策を編み出しました。

現代のビジネスにおいても、ライバルの優れた戦略の裏には「ライバルの弱点」が隠されていることがあります。そのため自らが危機的な状況にあればあるほど、その状況に焦らず、冷静に複数の情報源から情報を入手することが重要です。「相手も被害を抑えたい」という気持ちを持っていますので、相手の置かれている立場や環境を考え、相互の利益に変換していく方法を見けましょう。

2.相手の行動リズムを読む

今回の黒田勘兵衛の場合、赤松家の軍隊に攻め入ると決めた後、赤松家の軍隊の準備状況を把握するために密偵を放ちました。すると赤松家の軍隊は「別所家が先に小寺家の領土に攻め入るのを待っている状態」だったということが分かりました。そしてこの情報により黒田勘兵衛は赤松家の軍隊を攻めるタイミングを知ることができました。

現代のビジネスにおいても、相手の状況を知ることで、今が行動するチャンス(好機)かどうかが分かります。例えば、交渉相手が、何らかのトラブルや問題に巻き込まれている時、こちらが解決策を提示するすれば将来的により大きな利益を得る結果につながる可能性が高くなります。そのため時にはすぐに動くのではなく、「いつ動き始めるべきか」というタイミングを計ることも重要です。タイミングが合えば、物事の成功確率も更に上がることでしょう。

3.チャンスから得られる利益をコントロールする

これはチャンスをつかんだ後に重要になる「考え方」です。チャンスをつかんだ場合、そのチャンスを最大限に活かそうとすることは大切ですが、自分の中で「限度」を決めておくことが大切です。

今回の黒田勘兵衛の場合、赤松家の軍隊の方に攻め入った際、赤松家を追い払うだけで深追いはしませんでした。なぜなら、深追いすれば赤松家の領土で互いに本気の戦いをすることになり、黒田勘兵衛の軍隊にも大きな被害が出るからです。また「赤松家の軍隊を追い払った」という情報が別所家の軍勢の耳に入るだけで別所家も撤退することが分かっていたというのも、深追いしなかった理由の一つです。

もし黒田勘兵衛が軍功に焦って赤松家の軍隊を深追いしていたなら、戦いの結果は異なっていたかもしれません。黒田勘兵衛は、赤松家の軍隊を追い払うだけに留めたことで自軍の損害は殆どない状態で勝利を手にし、且つ小寺家の大きな窮地を救いました。この結果、小寺家の領土内だけでなく播州地方全域において黒田勘兵衛の名声は一気に高まりました。

すなわち「チャンスを手にした時」にひたすら利益を追求するのではなく、どこかで引き下がる境界線を決めておくことが、将来のより大きな利益につながります。

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